2015年7月2日木曜日

Xくんへの手紙

拝啓、Xくん


今日きみがしてくれた温かい話を、僕はこれから先、生涯忘れることは決してないと思う。きみが自分から話をしてくれたことを、僕はとてもうれしく思った。きみが、先生、あのね、僕、話したいことがあるんだよ、と心の底から僕に語りかけようとする気持ちが、きみの全身から伝わって来た。僕はきみの温かさを受け止めたいと思ったので、丁寧にきみの話を遮らずに聴こうと思った。


きみは敗北から自分の弱さを学んだと教えてくれた。弱さを克服するために、目の前の小さなことに忠実になることから始めた事を教えてくれた。そうしてきみは見事に自分の弱さに克己し、多くの人を驚かせた。しかしきみはそのことを、多くの人から支えられ、励まされ、気付かされたからできたのだ、と僕に教えてくれた。


きみはそれによって自信を得て、前に進むことができるようになった、と語ってくれた。その後、きみはきみの望んでいる結果を得ることはできなかったが、きみが祈り願ったことが神様に聞き届けられた事を実感したのだと、僕はきみの語り口の温かさとわずかに雫の光る眼を見つめて確信した。


きみはきみのクラスメートの成功に心から酔いしれ、まるで自分のことの様にうれしかった、と僕に教えてくれた。他人の成功の中に、自己実現を見いだした喜びを、赤裸々に僕に語ってくれた。静かだが、言葉が澱んだりすることはなく、きみが心から喜んでいることが、止まることなく溢れ出す友達への賞賛から伝わって来た。


きみは自分との戦いの中で、自分に打ち勝つことのみならず、自分の成功の先に、同じように苦労をし、一心に打ち込む仲間の努力の姿を重ねて見ることができるようになった。そして、友達の苦労を自分のことの様に労い、友達の成功を自分のことの様に喜び、心打ち震え、涙を堪えるので必死になるほど、人を受け入れ、深く愛することができるようになった。


僕は、そんなことを静かに、しかし熱く語るきみが、愛おしくてたまらなかった。


きみがこの数ヶ月で学んだことや実感したことは、のちの人生で幾度となく反芻され、きみの記憶の中に何度も何度も甦ってくると思う。そして、きみが歳を重ねれば重ねるほど、きみが今感じていること、今深く感情を揺さぶられていることに、きみが大きな影響を受けていること、そして、その影響が後の人生の節目で、あらゆることに向き合う時に、きみの優しさへと昇華されていくことを、何度も何度も感じ、その度にきみの心の震えは止まらないだろう。


きみは一人の人として自分を位置づけることから、一つの輪の中の大切な一人として自分を位置づけることへと、自分の身を移した。だからこそきみは、友達の成功や努力に対して、熱い想いを抱き、涙を堪えるのに必死なのではないか。きみは一人の個人としてではなく、この群れの一員として、家族として、心からの友人として、多くの人を受け入れ、多くの人を愛し、多くの人の中に喜びを見いだす価値を見つけ出した。僕はそのことを一生懸命に語ってくれたきみと、今日、初めて真の友になれた気持ちがした。初めてこの群れの家族としての絆を、友情を、共に練達し合う仲間意識を、深く感じ、心の震えが止まらなかった。


これからもいろいろなことがあると思うけれど、きみや、きみが愛する仲間が、互いに絆を深め、共にこれからの一日一日を、大切に過ごして行くんだろうな、という喜びに想いを馳せ、居ても立ってもいられず、こんな風にきみに手紙を書くことにした。


多くの言葉はもうこれ以上要らない。ありがとう。本当にありがとう。
きみが話してくれたこと、本当にうれしかった。


きみと出会えたこと、きみらと共に仲間になれたことを、僕は誇りに思い続けるだろう。



ありがとう。

もっとも大いなるもの

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